2021/05/21
【生産者インタビュー】株式会社ナガホロ様
国内1例目となるA2ミルクの販売を開始した株式会社ナガホロ様にインタビューを行いましたのでご紹介いたします。
★株式会社ナガホロついて
株式会社ナガホロは平成23年に法人設立。
同社がある北海道中標津町は、約40,000頭の乳牛の飼育頭数に対して人口が約24,000人という、人よりも牛の方が多い道内有数の酪農地帯です。
最大の特徴は日本で最初にA2ミルクを商品化し、JA中標津で製造・販売する「NA2MILK」の全量を搾乳をしていること。
代表取締役の永谷 芳晴氏は「いずれA2ミルクの時代が来る!」と確信を持ち、文字通り先陣を切ってA2ミルクの製造・販売を実現しました。
また、JA中標津でも組合長を努め、酪農のみならず地域の農業にも貢献しています。
永谷氏は「牛乳の裾野を広げるために、牛乳が苦手な方にも飲んでもらえるチャンスがあることはとても大きな意義がある」とA2ミルクの可能性を強く感じています。
★A2ミルクを知ったきっかけ
元々は地域の若い酪農家たちが集まり、牛の遺伝子に関する勉強会をしていたことがきっかけでした。
牛の改良を進めていく過程で、自然とA2遺伝子に関する情報が入ってくるようになります。
勉強を進めていくと「A2牛群を作ることなら自分たちでも出来そうだ」とプロジェクトの立ち上げが決まります。
また、同時期は道内でもA2ミルクの生産に興味を持つ牧場が出始めてきた頃。
永谷氏は「みんなが動き始めていたのはなんとなく知っていた。どうせやるなら早くやりたかった」と笑いながら当時の話を聞かせてくれました。
現在は当時の立ち上げメンバーを中心に5名でA2ミルク協議会をJA中標津内に設置。
週に170本〜200本の数量を出荷し、中標津近郊の小売店と東京・自由が丘の「ミルクランド北海道」で販売しています。
また、全国で一番初めにA2ミルクの販売を開始したことから、各メディアにも取り上げられることが多く、年々注目度が高まっています。
★農協でやるからある意義と課題
A2ミルクの販売を「株式会社ナガホロ」としてではなく「JA中標津」として行えた意義は大きかったと言います。
永谷氏も「自分達ばかりが儲けるのではなく、地域として活動していきたい」という農協組合長としての思いもあったのでしょう。
製造・販売をJA中標津にお願いする事で、株式会社ナガホロは生産に集中する事もできます。
既存の販路を使えるため「JA中標津」の名前も全国に広まる事になり、日本におけるA2ミルクの歴史を語る上で欠かせない存在になった点も大きな貢献だと言えるでしょう。
当時の組合長も、農協としてA2ミルクに関わる…という全国的にも前例のない話だったにも関わらず英断をしたことも大きな要因でした。
(ただ、製造・販売までにかかる経費の多くは永谷氏の個人負担だった…という裏話もありました。)
反面、組織として動いた結果、
・パッケージをもうちょっと工夫したかった(既存の製品と色違い)
・販売価格を既存の牛乳と大きく変えられなかった(現時点では赤字)
・積極的な売り込みがしづらい(既存牛乳との差異について未解明な部分が多い)
…などがありましたが、これも「やってみたからわかったこと。次の活動に向けての課題にしたい」と言っていました。
★A2ミルクに関する大きな2つの課題
A2ミルクを展開していく上で大きな課題に「何が正しいのかまだわからない」と点と「A2ミルクの商標の問題」を実感していると言います。
現在、A2ミルクに関する研究は世界的に進んできている…とは言え、それでもまだ未解明な点が多く、さらに日本にはその情報すら十分に届いていません。
そのため「A2ミルクにはどんな価値やメリットがあるのか?」という点について、十分に説明しきれていないのが現状です。
また「遺伝子検査の結果、A2牛群から搾乳された生乳」を既存の生乳と完全に分離することはできていますが、その生乳成分を検査するところまでは至っていない…という課題もあります。
ニュージーランドの「The a2 Milk Company」との関係では、商標や特許で法的な問題に発展しないように注意する必要があると言います。
実際、JA中標津の「なかしべつ牛乳プレミアムNA2 MILK」も商標申請をした時に、The a2 Milk Companyから分厚い書類で照会があり、対応に追われたそうです。
これに関しては当時の農協職員と弁理士を通じて対応し、無事に商標登録と販売に至りましたが…。
関係者も「たかだか170本程度の生産量しかない田舎の農協なのに!?」と驚きを隠せなかったそうです。
★お客様の声と今後の展開
A2ミルクに関して未解明な点が多い…と言っても、実際に「なかしべつ牛乳プレミアムNA2 MILK」を飲んだ人の声を聞くと、
・普通の牛乳はお腹を壊しやすいけど、NA2 MILKなら大丈夫。
・子供が「なかしべつ牛乳プレミアムNA2 MILK」が飲みたいと言うから釧路から買いに来ている人がいる。
・自由が丘でも評判はよく、入荷後すぐに売り切れることが多い。
など、評判は高いと言えます。
また、A2ミルク販売後に「竹下 広宣 准教授(名古屋大学大学院/一般社団法人Jミルク)」と協力し、介入試験を行なった結果「牛乳を飲むとお腹を壊すと言われていた人の、大凡8割は大丈夫だった」というアンケート結果も出ています。
このような声を受けて永谷氏は、酪農家の一人としてだけでなく、地域の農業を担う農協の組合長として。
今後は、冒頭にもあった通り「牛乳の裾野を広げるために、牛乳が苦手な方にも飲んでもらえるチャンス」としてA2ミルクを通して牛乳の消費拡大に積極的に取り組んでいきたい…と考えています。
その中で、牛乳が苦手な高齢者や、同じく牛乳が苦手な成長期の子供達、さらには学校給食にも広げていきたい…という思いがあると言います。
(インタビュー 藤井、記事 藤本)